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2007.8.16-28 : 10 Days Exhibition vol.18 松田雄一郎「Horse」 プリント

 

 

「Horse」



被写体として馬を撮りたいと思うようになった。いつかの旅で出会った、深く澄んだ黒い瞳の馬が私の心の中で幻影となって育ち、忘れられずにいたからだ。
荷物をまとめて向かった先は北海道、帯広の観光牧場。そこは広大な敷地に、馬40頭、牛300頭、羊50頭もの家畜を飼育していた。しかし、経営がうまくいっておらず、一見すると廃墟のようだった。この牧場もバブルの崩壊と共に衰退していった観光業の例外ではなかった。
小さな子供が一人いる牧場の一家は、私を暖かく迎え入れてくれた。最初は、羊小屋の上の納屋を寝床に与えられ、食事は家族と共にした。無給だが、精一杯働いてその恩を返した。ここの牧場主は元獣医で、馬と共に生きるという夢を追うために医師を辞め、栄枯盛衰を身をもって体感していた。辛苦を舐めたその生きざまは壮絶で、「生きる」ことについて語った言葉は、私の心に強く響いた。
冬には−30℃に及ぶ極寒の地で、生きるために働き夢を追い続ける牧場主に、私は少しでも役に立ちたいと思うようになった。当初一ヶ月程の滞在で帰郷するつもりであったが、気付けば一年半もの間、住み込みで働きながら撮影を続けていた。

 
霧掛かった満月の夜に、馬の出産に遭遇した。母馬は陣痛が始まると小さな馬房の中でその巨体を命一杯にくねらせ、悶え苦しんだ。壁に足を叩きつけ、厩舎が悲鳴をあげた。とうとう現れた子馬の前足を、牧場主と私は力ずくで引き抜いた。真っ白な羊膜に包まれて出てくる子馬に怯む間もなく闇雲にシャッターを切った。瑞々しく現れた新しい生命は、無償に輝く命の尊さを私に教えてくれた。私は生き物の力を知った。


ここには、私の内奥に存在する原風景で溢れていた。しかし、厳しい肉体労働の環境の中で撮影の余地がなく見過ごすこともあった。だが、後悔の思いはない。

透き通る真っ黒な馬の瞳は、全てを写し返す鏡のようであった。馬が私に教えてくれたことは数知れない。
ここに写し出された馬は、馬自身であり、私自身でもある。

松田雄一郎

 

 


 

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