風の旅人vol.38 「時の肖像」風の旅人vol.38 「時の肖像」風の旅人vol.38 「時の肖像」

風の旅人vol.38 「時の肖像」

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商品説明

彼岸と此岸1  時の肖像
現代人の多くは、完成と未完成で世界を分別し、未完成なものが完全なる状態に到るために、階段を一つずつ上っていくことが成長であると思っている。
 多くの人間は、自らの経験を通じて、自分を取り巻く世界が一つの正しい答で固定できるものではないし、いたずらに変化しているだけでもないことを知っている。
 時とともに変化してきた樹木の年輪や、地層や、皺を見ると、どれ一つ同じものはなく、それぞれが微妙に異なりながら、全てがある一定の変化幅のなかに収まっていることがわかる。有機物も無機物も、環境変化に対する調整力を持ち、恒常性を保つ能力も備えている。変化していく定めのなかで、自分が自分であることを確認し、自らの固有性を維持しようとすることも自然の摂理に組み込まれており、だからこそ世界は簡単に標準化されない。といって勝手気ままになるわけでもなく、秩序に向かう力と、混沌に向かう力が均衡している。そして、その緊迫した状態に美を見出す感受性を人間は具えているのだ。
全ての物事は最終的に無に帰すから地上の出来事にこだわるのは無意味だという、知ったかぶりの説法も一理あるが、それが宇宙の真理だとすると、この地上に、これだけ多様な生態系は生じない筈だ。異なるものの出会いが数多く用意されているのは、そこに何かしらの意味がある。秩序と混沌の揺れ幅と均衡を絶妙に整えながら、世界は、恒常性を保ちつつも絶えず変化していくことを欲しているのだろう。
 人間は、食物を得て自らの恒常性を保つだけで健全に生きられるわけではない。未来に向かって自分がどう変化していくかをイメージして、その具現化のために関係性を織りなしていくという精神活動によって生を活性化している。すなわち人間は、不確かな未来からエネルギーを得ることができるのだ。
 人間にとって、世界とは、様々な関係性が詰まった時間そのものであり、人間は、その関係性を身につけ、行動のなかに織り込み、自分に固有の時間を世界に付け足していくことを潜在的に求めている。それがゆえに人間社会は、多様性に満ちて出会いの幅が広がるほどに、生き生きとしたものになっていくのだろう。
 
雑誌『風の旅人』編集長 佐伯 剛
【 表紙・裏表紙 】
牧野美智子
【 写真 】
原始の記憶
photos / 北義昭
原始の記憶
photos & text / 大西成明
モーメント、モニュメント
photos & text / 森永純
Starlings
photos & text / Paolo Patrizi
光跡/追憶・・・ 和歌山
photos & text / ヨハン・オーカタ
古と今の世界
photos & text / 久保田博二
【 文章 】
【連載】電気の働きに満ちた宇宙? 第8回 太陽
text / デビット・タルボット
【小特集】縄文のコスモロジー第1回 縄文の人間学
text / 酒井健 photo / 滋澤雅人
テ・マエヴァ・ヌイ
text / 管啓次郎
囀りとつぶやき
text / 田口ランディ
ぬるい目玉
text / 望月通陽
汝力なきものとして
text / 前田英樹
チェンマイ、彼岸の時空
text / 蛭川立
−引き引いたは、千僧供養
text / 姜信子
コーカサスの地と、映画への思い
text / 小栗康平
インサイトコミュニケーション
text / 皆川充
     


出版:ユーラシア旅行社, 2009/10年

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