三好耕三

RINGO 林檎

2015.10.27(火) − 12.26(土)
PGI

三好耕三

RINGO 林檎

2015.10.27(火) − 12.26(土)
PGI

  • ©Kozo Miyoshi

PGIのリニューアルオープン展として三好耕三作品展「RINGO林檎」を開催致します。

 

三好耕三は1970年代に写真家としてのキャリアをスター トしました。2014年には「スピリチュアルワールド」展(東京都写真美術館)、そして今年は「In the Wake: Japanese Photographers Respond to 3-11」(ボストン美術館)にて作品が大きく扱われ注目を集めました。16X20インチの大型カメラを用いて旅をしながら真摯な視線で光景と対峙する作風は、国内外ともに高い評価を得ています。

 

海岸線をなぞる旅、桜を追う旅、湯船に出会う旅、そうした旅の津々浦々でカメラとともに、風景と対峙し続けてきた作者が、以前からずっと気になっていたと言うりんごの撮影を決心したのは2011年の冬のことでした。撮影の旅の中でりんご農家の人たちとの出会い、時には週末の数日をりんご小屋で寝起きをし、約3年半をかけて制作しました。

 

「リンゴの土地までは凡そ七百キロ。この道程は大雪に見舞われていた。シベリアからの寒波が張り出して来ているらしい。峠を過ぎ高低が下がると、圧雪の道路に気を使い、いつものハンドルの握りより心なしか慎重だ。これが堪らなく心地よい、ふと気がつけば曲はいつものNeil Young。そして一人はにかみ車を走らせる。着いた所には肩まで雪で埋もれた、百回以上実を実らせたリンゴの樹が耐えている。
林檎の花咲く頃、北に向かって旅をする。リンゴの花びらはフワリと頼りなげに可憐です。ツボミのときは少し紅が差し、開くとほんとうに真っ白です。リンゴ園の地面は柔らかなみどり草に覆われ、所々にタンポポも咲いています。山一杯のリンゴの花が、阿闍羅山の頂の雲が徐々に取れて朝陽が当たって白く輝き出しました。
何処のりんご畑にもりんご小屋が点在しています。長年使い慣れた支えの材料、大小様々な脚立、突然の雨に使う雨合羽、お茶時に使うリンゴの空き箱、リンゴ の木々の合間を行き交う数台の一輪車など、どれ一つを見ても合点がゆく物が詰まっている。そして小屋の中には六畳程の板敷きがあり、冬が早いのだろう、常時簡易の薪ストーブが設えてある。デコラ板の壁には地元のスーパーマーケットのものと思われる幾年か前のカレンダーが、隙間風に音もなく揺れている。勿論電灯は見当たらない。
りんご小屋で目が覚めた。快い温くさの寝袋から手探りに、お気に入りのソーラーランプを探し当て、慣れない引戸を開けはらった表では、無数の星の瞬きが 降っていた。微かな星明りに照らされた、見慣れた枝のりんご達はほのかに気噴を放っている。この騒めくわくわく感は何だろう。この小屋達はいくつの夢を紡いだのだろう。いくつの実を実らせたのだろう。このりんご小屋の佇まいが堪らない。」(三好耕三)

 

りんごと人間の関係は古く、日本では「和りんご」が渡来したのが平安時代中期、とされています。世界の中では約8000年前の炭化したりんごが発見された例もあるほど。振り返ってみればりんごは、神話、逸話、物語に何度も登場し、歌に歌われています。夜、家族が集まった団らんの中で語られる物語にりんごが登場する、そして多くは智慧や幸福を象徴としたものとして語られるのは、人間のりんごに対する近しい愛情ゆえではないでしょうか。栽培には大変な時間と手間がかかるというりんご。
人間の生活と歴史が詰まった完璧な光景、と三好が言うりんごのある風景。三好が撮ったそうした風景には、その風景を培ってきたりんごと人間の関わりの歴史と生活が写っているようです。

三好 耕三(みよし こうぞう)
1947年生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。1986年日本写真協会新人賞受賞。

近年の主な個展に「SABI」フォト・ギャラリー・インターナショナル<以下P.G.I.>(東京 2013年)、「YUBUNE 湯船」P.G.I.(2012年)、「櫻」1839當代画廊(台北 2011年)、「SEE SAW」P.G.I.(2010年)、「SAKURA 櫻覧」P.G.I.(2009年)、「津々浦々」P.G.I.(2007年)、「Tokyo Drive 東京巡景」P.G.I.(2006年)、「Seagirt 海廻り」P.G.I.(2004年)、 「SAKURA 櫻」P.G.I.(2003年)、「CAMERA 写真機」P.G.I.(2002年)、「Tokyo Street 横丁」P.G.I.(1999年)、「In The Road」P.G.I.(1997年)がある。2015年「In the Wake: Japanese Photographers Respond to 3-11」(ボストン美術館)、2014年「スピリチュアル・ワールド」(東京都写真美術館)、2012年Amherst College Mead Art Museum展覧会「Reinventing Tokyo: Japan’s Largest City in the Artistic Imagination」展に参加。
作品は東京国立近代美術館や東京都写真美術館、ジョージ・イーストマン・ハウス国際写真美術館(U.S.A.)、アリゾナ大学センター・フォー・クリエイティブ・フォトグラフィー(U.S.A.)、ヒューストン美術館(U.S.A.)などにコレクションされている。