圓井 義典

点-閃光

2016.6.6(月) − 8.10(水)
PGI

圓井 義典

点-閃光

2016.6.6(月) − 8.10(水)
PGI

  • ©Yoshinori Marui

  • ©Yoshinori Marui

PGIでは6月6日より、圓井義典のPGIでは3回目となる個展を開催いたします。
本展では、2011年から制作されたシリーズ「点-閃光」からカラー作品約17点を展示いたします。

 

圓井義典は東京芸術大学美術学部デザイン科在学中より写真作品の制作を始めました。2000年頃から日本各地を丹念に歩くことを始めます。カメラを持ち、土地土地にまつわる歴史や個別性に目を向けながらも、むしろそうした背景や事柄が写ることを避けて撮影の旅を続けました。そこには「(圓井自身が)後天的に身に付けた、善と悪といった二元論や、イデオロギーにまつわる安易な意味づけや解釈を伴った視点が世界を狭隘なものとしているのではないか」という問いかけと、むしろ一見何の変哲もないような匿名的な風景写真の中にこそ、意味づけがなされるよりはるか以前に存在した、より多義的な世界があるのではないかという思いが根底にありました。

こうした疑問に挑んだこの作品は2003年に「地図」というタイトルで発表しています。
この旅の中でも、沖縄に被写体を絞り制作した作品が「海岸線を歩く-喜屋武から摩文仁まで」(P.G.I.)です。前作の「地図」が空間を水平方向に往還した記録であるとすると、時間を垂直方向に往還した旅の記録でもあるこの作品では、沖縄喜屋武半島南部の喜屋武岬から摩文仁の断崖に至る、珊瑚で形作られた複雑な海岸線を歩き、歴史に翻弄された人々の痕跡が残る海岸の池面を淡々と切り取りました。これらの作品はそれぞれ被写体へのアプローチに違いはあるものの、作者自身が培ってきた世界像を修正する行為でした。
しかし歴史性を現実の光景に対比させようとする恣意的な撮影行為の度に、いつも先んじてファインダーに立ち現れる光の美しさに導かれて、「具体的なテーマや被写体を選ぶこと以上のことに興味が移っていった」と語っています。光をとらえる作業は作者の美に対する価値観を変えていきました。
「地図」と「海岸線を歩く-喜屋武から摩文仁まで」の2作は、美の本質は「観念や概念にある」という考え方に基づき、見えている被写体の美しさはことさら問われることはありませんでした。しかし「光をあつめる」では、個人や時代に依拠する観念や概念による判断以前の、始原的な魅力をたたえた光の美しさそのものと、「写真と光」がテーマとなっています。

 

本作「点-閃光」で主たるテーマとなるのは、選択されなかったものへの意識です。その意味では「地図」で画面から意図的に歴史や意味、個別性を排除していった行為と対になっていく作品と言えるでしょう。とはいえ、被写体となるのは「地図」や「海岸線を歩く-喜屋武から摩文仁まで」のような具体的な被写体ではなく、「光をあつめる」で得た「美」への意識が被写体選択の着想にあるようです。光によって存在する日常の中のものや、光と影を同時に孕む静物の佇まいなどが写されています。それらは特別な意味を持たないものの、さながらスペインの画家、アントニオ・ロペスが光を描くことで対象を塗っていくような光への渇望も感じさせます。

 

作品を作り続けることで、見えない世界、人が認知できる以上のものを見ることができるのではないか、そして写真術は、人の持つ「見たい」という欲望を満たす装置であるのではないかと作者は語っています。本作は「見ること/写すことによって世界は克明になるが、そのことによって同時に無意識に捨て去っているものがある」ということを、見る人と共有するための試みと言えるでしょう。

 

展示では、圓井の試みとして、作品とともに、哲学者/数学者のアルフレッド・ノース・ホワイトヘッドの言葉や写真術に言及した作者本人の文章と、また圓井の問いかけに応答する若き哲学者、吉田幸司氏の書簡とを同時に設置いたします。

圓井 義典(まるい  よしのり)
1973年大阪生まれ。1996年東京芸術大学美術学部デザイン科卒業。1997年東京綜合写真専門学校研究科修了。
2011年より東京工芸大学芸術学部写真学科准教授。
主な個展に「失踪」Gallery Floor 2(東京 1996年)、「Sight」かねこ・あーとギャラリー(東京 1998年)、「新作展」ギャラリーQS(東京 1999年)、「新作展」exhibit LIVE(東京 2002年)、「新作展」現代HEIGHTS Gallery Den(東京 2002年)、「地図」exhibit LIVE (東京 2003年)、「沖縄」exhibit Live & Moris (東京 2005年)
「海岸線を歩く—喜屋武から摩文仁まで」フォト・ギャラリー・インターナショナル(2008年)、「光をあつめる」フォト・ギャラリー・インターナショナル(2011年)などがある。
「沖縄・プリズム 1872-2008」(東京国立近代美術館 2008年)など多数のグループ展にも出品。

 

 

PGI Exhibitions

2016年 「点-閃光」
2011年 光をあつめる
2008年

海岸線を歩く− 喜屋武から摩文仁まで