潮田登久子

マイハズバンド/My Husband

2022.1.26(水) - 3.12(土)
PGI

潮田登久子

マイハズバンド/My Husband

2022.1.26(水) - 3.12(土)
PGI

  • ©Tokuko Ushioda

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PGIでは二度目となる、潮田登久子の作品展を開催いたします。

1960年に桑沢デザイン研究所に入学した潮田登久子は、石元泰博、大辻清司に師事し、1963年に卒業しました。写真家の牛腸茂雄(桑沢デザイン研究所1968年卒)や児玉房子らとはこの頃に親交を深め、刺激を与え合いながら、1975年頃から写真家としての活動を開始します。のちに夫となる、写真家の島尾伸三(1974年東京造形大学卒)とは、出会うまでの数年間、大辻という共通の師を持つコミュニティーのなかですれ違っていたのでした。1978年に潮田と島尾は娘をもうけ、結婚します。

 

娘のマホが産まれて間もない1979年の初め、3人は、憲政の神様といわれた尾崎行雄(政治家、ジャーナリスト)の旧居を移築した歴史的な洋館に引っ越しをします。そこは「箱のような」二階の一室。この借家は、台所とトイレが共同で、初期の頃は冷蔵庫すらなかったと言います。妻になると同時に母となった潮田は、子育てに時間と体力の多くを割かなければなりませんでしたが、子供の成長を支えると同時に、アーティストとしての自身を再構築し、成長させていく必要があることを悟っていたでしょう。子どもの存在は、それまで無意識に身につけてきた自己表現の形に、より敏感になるきっかけを与えたかもしれません。その意味で、この時期に撮り始められたこれらの未発表作品は、潮田作品を知る上での出発点とも言えます。

 

潮田の独自性は、彼女の芸術表現の根ざすところでもありました。時に潮田の作品には、石元や大辻の教えの影響が見られます。その一方で、夫の島尾は、表現者としても家庭人としても、まったく異種な人物であり、加えて、同じ狭い生活空間の中で写真を撮っていたのでした。そのような相手との家族写真において、潮田はオリジナリティを試されたと言えるでしょう。迷いながら独自の視点を模索するプロセスがそこにはあったかもしれません。だからこそ、ノスタルジックでも、風刺的でもないバランスを保ちながら、モノの背景にある人間のドラマを見せる、潮田作品に特徴的な冷静さがいっそう磨かれたのか。最初の代表作「冷蔵庫/ICE BOX」は、この時期にうまれた作品です。また、日本初のコマーシャル写真ギャラリー「ツアイト・フォト・サロン」(1978–)や、日本写真のアイデンティティ形成に貢献した同朋である故・平木収氏、金子隆一氏(ともに写真史家)などの存在が、潮田の捉えた世界の一角に写しだされています。

 

 夫と私には生まれたばかりの赤ん坊がいました。3人の生活は古い木造2階建ての西洋館の2階にある1室の、間借り暮らしから始まりました。

 夫も私もさほど仕事があるわけでもなく、フリーターのような暮らしでしたから、日がなごろごろして、南に向いた大きな窓から差し込む日差しを浴びる生活でした。

 40年前のこの暮らしを写真集にするきっかけは、その西洋館の1階に住んでいた大家さんの引越が迫ったことに始まります。

 私たちの生き散らかした生活用品、中国旅行で集めてしまった雑貨の山を整理する中で、当時の私のネガやプリントが出て来たのです。

 すっかり忘れていた時間が、印画紙の紙箱に40年も閉じ込められていました。今となってはとても重たく感じるブロニカS2や35ミリフイルムを使う一眼レフカメラで、何の目的も無く、気まぐれにシャッターを押していた自分を思い出しました。

 

 菓子箱の蓋のまな板と小さな果物ナイフの、ままごと遊びのような台所仕事でした。西洋館の暗い廊下を、四つん這いになって一直線に駆け抜ける雑巾がけに、小学生時代の掃除当番を思い出し、額に汗を滲ませた久し振りの全身運動は、ちょっとした達成感です。

 この建物の住人が寝静まる頃には、枕元の中古の大きな冷蔵庫のモーターがガタンという不気味な音をさせるなり唸りはじめます。それを聞いているうちに、私の漠然とした不安が頭をもたげてきます。

 月や星がどこかへ行ってしまった、カーテンの無い大きな窓の向こうの黒い森を眺めているうちに、私はいつの間にか眠りにつくのです。

 

潮田登久子

 

 

 

 

[写真集発刊のお知らせ]

マイハズバンド
執筆:長島有里枝 光田ゆり
アートディレクション:須山悠里
編集:高橋 朗、ヒントンみゆき(PGI)、網野奈央(torch press)
翻訳:ポーリー・バートン(長島有里枝テキスト)、河野晴子(光田ゆりテキスト)
プリンティングディレクター:平田浩二(大伸社ライブアートブックス)
印刷・製本:株式会社ライブアートブックス
発行:torch press
B5変形 2冊組
価格:5,500円(税込)

 

【関連展覧会】

 潮田登久子「マイハズバンド」    2022年2月23日(水・祝) — 3月6日(日)

 場所 blackbird books   (大阪府豊中市)tel 06-7173-9286

 

【インタビュー】

 IMA online   『マイハズバンド』を出版した潮田登久子の40年間変わらない「写真」との関係

 

【関連記事】

 ときの忘れもの 「大竹昭子のエッセイ『迷走写真館~一枚の写真に目を凝らす』第110回」

 

 

 

潮田 登久子(うしおだ とくこ)

東京生まれ。1963年桑沢デザイン研究所写真学科卒業。1966年から1978年まで桑沢デザイン研究所および東京造形大学講師を務める。1975年頃からフリーランスの写真家としての活動を始める。代表作に様々な家庭の冷蔵庫を撮影した『冷蔵庫/ICE BOX』、書架に在る書籍を主題とした『本の景色/BIBLIOTHECA』などがある。

2018年に土門拳賞、日本写真協会作家賞、東川賞国内作家賞受賞。