原 直久

アジア紀行 : 北京・胡同 − 拆

2013.3.6(水) - 4.27(土)
Photo Gallery International

原 直久

アジア紀行 : 北京・胡同 − 拆

2013.3.6(水) - 4.27(土)
Photo Gallery International

  • ©Naohisa Hara

原直久がヨーロッパや日本を撮り始めた1970年代には韓国、中国、台湾といった国々に撮影旅行へ行く、ましてや8×10インチの大型カメラを持ち込んでの撮影などもってのほか、個人レベルでの取材旅行は不可能な状態だったと言います。しかし2000年9月、初めてソウルを訪ねた折、他の国では味わったことのない何とも言いようのない懐かしさを感じた作者は、交流した学生たちの熱気、街の圧倒されるような活気に驚き、韓国のシリーズを是非撮りたいと、撮影をはじめました。以降、台湾、北京と「アジア紀行」と題しアジアでの撮影を続けています。

 

2006年、プラチナ・プリントの展覧会とそのワークショップを開催する為に北京を訪れた作者は一週間以上の滞在のチャンスを得、北京での初めての撮影を行いました。2008年の北京オリンピックを2年後にひかえた北京では都市の大改造が行われその街並が大きく変わろうとする時でもありました。

 

元朝の道路建設に関する規定では、幅六歩(約9.3m)の狭い道路を胡同と呼びます。明代以降、道路建設に関する規定がほぼ無くなってからは、この胡同と呼ばれる不規則な路地が多く出現しました。
北京には現在でも多くの胡同が残っており、人々が生活を営んでいます。

 

胡同は中華人民共和国の首都北京の旧城内、つまり故宮を中心に毛細血管のように張り巡らされた、細い路地に展開される古い街並みの呼称で、そこは北京の中心地にもかかわらず、未だに共同トイレで用を足さねばならない事や、台所も無い家も多く、住むのに不便を感じることも多い事だろうが、我々現代人が忘れてしまったような、人間らしい生活を垣間見る魅力的な世界である。また壁にペンキで大きく拆(チャイ)と書かれた文字を目にするが、これは近い将来取り壊しが決まっている建物の印で、長い年月北京の体臭と多くの出来事を見守って今消えなんとしながらも、最後の威光を放って佇む老優のような威厳すら感じる。(原 直久)

 

1970年代からライフワークとして、フランス、イタリア、スペインなどの、ヨーロッパの都市と自然との関わりを捉えてきた作者は、卓越した撮影技術とプリントワークによって、歴史的に様々な背景をもつヨーロッパの「時の遺産」を映像で表しました。
アジア紀行では、作者自身の大きなテーマである「都市と自然の関わり」だけでなく、同じアジア人として懐かしさや親近感を感じながら、そこで生活する人々が都市の変貌とともに築いてきた文化と生活の営みと、「拆」という文字に象徴的に現れる開発の波に飲まれ消えていく文化を捉えました。

 

本展ではプラチナ・プリント作品、20余点を展示致します。

原 直久(はら  なおひさ)
1946年千葉県松戸市生まれ。1969年日本大学芸術学部写真学科卒業。1971年日本大学芸術研究所修了。
1976年~77年文化庁派遣芸術家在外研修員としてフランス、ドイツで研修。1984年~85年日本大学長期海外研究員としてパリを拠点に研究および制作活動を行う。現在、日本大学教授。
近年の主な個展に、「Nostalgia」(BOMギャラリー、韓国ソウル 2010年)、「アジア紀行:台湾」(2009年)、「アジア紀行:韓国」(2005年)、「欧州紀行」(2003年)、「ヴェネツィア」(2000年)、「ヨーロッパ:プラチナ・プリント・コレクション」(1997年)[いずれもフォト・ギャラリー・インターナショナルで開催]などがある。
グループ展に「第7回eco展」(韓国 ソウル 2012年)、「第6回eco展」(韓国 ソウル 2010年)、「未来を担う美術家たち DOMANI・明日展 2008 <文化庁芸術家在外研修の成果>」(国立新美術館 2008年12月〜2009年1月)、「Viva! ITALIA」(東京都写真美術館 2001年)、「プラチナ・プリント ― 光の誘惑」(清里フォトアートミュージアム 2000年)、「ヘルテン国際写真フェスティバル ’99」(ヘルテン ドイツ 1999年)がある。