須田 一政
テンプテーション 2011−2013
2013.9.4(水) - 10.5(土)
Photo Gallery International
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©Issei Suda
人や街、日常を被写体に驚くほどの多様性を繰り広げ独自の世界を創り出してきた須田一政は、2010年に千葉県津々ヶ浦にある島を撮影し弊廊にて「雀島」を発表しました。ひとつの被写体を執拗に追いかけた「雀島」シリーズを終え、再度カメラを手に街へ出、様々な被写体を撮ることを始めます。
近年、スナップの際には35mmカメラを使用していましたが、「撮影に向かう姿勢が雀島をきっかけに変わりました。」と語る本作では、645や6×7の中判カメラに持ち替えています。
「『テンプテーション』は作品のテーマ、というよりも現在の撮影に対する自身のあり方というべきかもしれません。今までは意識して被写体をチョイスしてきましたが、最近どうも被写体に引き寄せられているような気がしています。大げさに言うと、トランス状態で街を歩いていて、ほとんど無意識に、自然に撮らされている感じがしてならないのです。」
現実にある被写体を写真に異化することでその物質の持つ性格さえも変えるスナップは須田の真骨頂とも言えます。そのスタイルを更に研ぎすませたかのような今作では、意識的に被写体や出来事を選び撮影するのではなく、何ものかに憑かれ、それらが発する声に呼応するかのようにシャッターを切っています。それは、時に革張りのソファや市場の魚の腹までもが妖艶な姿態を写真家の前に晒しているかのようです。写された被写体以上に、自身へ向けた謎がテーマの作品と言えるでしょう。
ここ数年は病院へ通うことが多く、その生活の中で昼間はもちろん、まるで夢遊病者のように夜中もカメラと三脚を携え徘徊する姿は、幾度となく病院の監視カメラに写っていたと言います。
写すことへの意欲はまるで「生」と「撮影」が相互のメタファーとなっているかのようです。
そして生と直結してある性を無機物にさえも見いだす須田の視線は、写真というメディアが目に見えないオーラを写すことができることを証明する希有な例かもしれません。
本展ではゼラチンシルバープリント約25点を展示致します。