-
©Arisa Kasai
P.G.I. 10 Days Exhibition と題するこのシリーズでは、若手や新人、中堅の写真家、あるいはポートフォリオ作品などを紹介する企画展で、テーマのみならず表現方法や展示方法など個性的な作品を発表するものです。
人種、国籍、性別、年齢よりも強く一個人の人間としてアイデンティティを確立しているサンフランシスカンに魅了された作者は、アメリカで写真を本格 的に始めて2年目に地下鉄で写真を撮り始めた。サンフランシスコ市内を走る地下鉄の中で観察した個性豊かなサンフランシスカンたち。ファインダーも見ず、 感覚的にアングルを決めてシャッターチャンスを狙っていた。撮影をとおして、東京とサンフランシスコという都市に生きる人々の相似性や、皆同じように大切なものを軸に生きていること、作者自身も地下鉄のサンフランシスカンたちと同じように個として存在していること、様々なことに気付かされたと言う。
モノクロームプリント作品、約30点を展示。
“San Franciscans” by 葛西亜理沙
始めは真似だった。
本屋さんでNYの地下鉄を撮ったカッコイイ写真集を見つけた。
コントラストの高いモノクロの写真は、地下鉄の暗さや汚さ、淀んでいる空気を消し去り、むしろ全てをカラフルにヴィヴィッドに写していた。
ちょうど、米国で写真を本格的に始めて2年目だった。
「私も、サンフランシスコの地下鉄をカッコヨク撮りたい。」
人種、国籍、性別、ジェンダー、年齢よりも、一個人の人間としてアイデンティティを確立するサンフランシスカンに魅了されていた私は、翌年、大学を卒業して帰国する前に、彼らのひとつのストーリーを撮ってみたいと思っていた。
それからは、カメラを持って地下鉄での観察の日々。
気づかれないように、
ファインダーも見ず、
何となく間隔を決めて、
シャッターチャンスを狙いながら、そーっと。
電車が“がたんっ!”と大きく鳴って揺れたときに、静かに“カシャッ”。
地下鉄の中で、人は話し、笑い、携帯をいじり、新聞を読み、居眠りをし、音楽を聴き、考え事をし、何かに思いを馳せていた。
個性を大切にするサンフランシスカン達は、静かな個の世界に入っていた。
というよりも、私自身が彼らのストーリーを撮りながら、カメラを持って静かな個の世界に入っていたのかもしれない。
真似から始めたけれど、いつの間にか自分の視点で撮り始めていた。
試行錯誤しながらも、サンフランシスカンストーリーを写真にしていた。
葛西 亜理沙(かさい ありさ)
1980年 横浜市出身
2004年 サンフランシスコ州立大学芸術学部卒業
2005年より坂田栄一郎氏に師事