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©Yoshihiko Ito
7月下旬から8月上旬、上野動物園内の弁天橋の附近では、青々と大きく開いた蓮の葉と、その間に顔を出すピンク色の花を間近に見ることができます。そして、8月も半ばを過ぎると花の数も少なくなり、いつもの静けさに戻り、この頃には蓮の葉は大きくなります。
この時期になると作者は、にわか雨が降り、雨水が蓮の葉に溜まるのを待ちます。そして、晴れ上がった朝、作者はその様子を想像しながら弁天橋を訪れます。
「雨水は少し盛り上がり、そこに陽の光が反射して輝き、葉の上の雨水は、葉の形に相応し多様な形を呈する。風に揺られ、不規則に変動しながら、その中で陽の光が踊る。蓮は雨水を呼び、様々な顔を見せてくれる。」と作者は語っています。
ある時、蓮が地中からその茎を通して、葉の中央の雨水に息を吐き出しました。それが「水泡」となり、つぎつぎと現れて増えていきます。この一連の様子を観察し記録したものが今回の作品群「蓮の泡」です。
これは「パトローネ」シリーズの2作目となりますが、主に定点観察の方法で撮影し、日本古来の絵巻の特徴である時空間表現を参考にしながら、複数のプリントを裂き、貼り合わせて、再構成するモザイクの手法で制作しています。また、これらの作品は、従来のコラージュ手法とは異なる、作者独自の写真表現と言えるでしょう。
作品はそれぞれがオリジナルであり、イメージは、1コマのものから複数の貼り合わせで、最多20連まであります。今回は新作20余点を発表致します。
同時に今回の展示では、1980年代から制作をはじめたKUMO、SHIKAKU、KAGEなどのシリーズから代表作を掘り起こして、伊藤義彦のこれまでの視点の変遷を振り返ります。
伊藤 義彦(いとう よしひこ)
1951年生まれ。東京綜合写真専門学校卒業。東京国立近代美術館「写真の現在2・サイトー場所と光景」(2002年)、東京国立近代美術館フィルムセン ターや東京都写真美術館、原美術館をはじめとする多数のグループ展で作品が展示される。近年の主な個展に 「パトローネの中—観ること、観つづけることー」Gallery Raku, 京都(2002年)、「パトローネ」P.G.I. (2000年)、「影のなか」P.G.I.(1998年)、「Contact Print Stories」Laurence Miller, New York (1992年)がある。
PGI Exhibitions
2017年 | 「箱のなか」 |
2010年 | 「時のなか」 |
2006年 | 「水のなか」 |
2004年 | 「蓮の泡」 |
2000年 |
「パトローネ」 |
1998年 |
「影のなか」 |
1996年 |
「風と蝸牛」 |
1994年 |
「観ること・観つづけること」 |