伊藤 義彦

フロッタージュ -フィルムの中-

2022.3.23(水) - 4.28(木)
PGI

伊藤 義彦

フロッタージュ -フィルムの中-

2022.3.23(水) - 4.28(木)
PGI

  • ©Yoshihiko Ito

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インタビュー記事をアップしました。こちらからご覧ください


 

PGIでは5年ぶりとなる、伊藤義彦作品展「フロッタージュ -フィルムの中-」を開催致します。

 

 東京綜合写真専門学校を卒業した1970年代後半から作家としてのキャリアをスタートさせ、写真では表現し難い「時間のながれ」、「意識のながれ」といった目に見えない概念を、写真表現を通して追求してきました。

ハーフサイズカメラで撮影したフィルムを撮影順に並べたコンタクトプリントが一つの作品になる「コンタクトプリント」シリーズで、画面全体で一つの絵を構成する「imagery72」シリーズや、小動物や水滴、葉、波などの被写体を定点観測のように繰り返し撮影した「MM」シリーズで、時間の流れや意識の流れを表現した独特の世界観を創り出しました。1990年代後半からは、「異時同図」で描かれる日本古来の絵巻物を参考に、イメージを繋ぎ、貼り合わせる、「パトローネ」シリーズを制作します。自ら『写真絵巻』と呼ぶこのシリーズは、固定した場所から連続撮影した写真を素材に、引き伸ばしたプリントの必要な部分だけを破り取り、イメージを横長に繋ぎ合せて画面を再構築し、一つの画面の中に異なる時間軸を表現したものです。

 

 パトローネシリーズで使用していた印画紙が生産中止となり、写真作品の制作が困難になった伊藤は、新しい表現の道を模索します。

フィルム写真を愛用し、暗室作業を好んだ作者は、使うことのなくなったフィルムを日々手に取り、眺めながら、「様々なイメージをかきたてる存在」と語るフィルムから様々なことに思いを巡らせます。そして、写真作品制作時に資料として絵コンテやスケッチに慣れ親しんだことから、この愛着あるフィルムをモチーフにフロッタージュ作品の制作に没頭するようになります。

 

 フロッタージュは、凹凸のあるものの上に紙を置いて擦ることにより、現れる形や模様の偶然性を利用して表現する技法ですが、伊藤のモチーフは主にフィルムであり、そのテクスチャーを利用した表現というより、フィルムから広がった想像の世界を表現した画面構成が特徴と言えるでしょう。

8×10(エイトバイテン)のフィルムをベースに描き、その中に35mmフィルムを用い、様々な世界が展開されます。時間の流れを連想させるフィルムのパーフォレーションや砂時計、円や球体は、伊藤が写真家としてのキャリアの中で常に表現し続けてきた、写真に向き合う思考が表現されています。一枚一枚緻密な手作業によって生み出された作品には、作者にとって想像の源であるフィルムが繰り返し描かれ、フィルムがまるで生き物のように画面の中の世界を謳歌しています。

彼のフィルムに対する愛着とオマージュが詰まった作品をぜひご高覧下さい。

 

フロッタージュ作品の中から、エマルジョンと題されたシリーズ、約35点を展示致します。

 

 

 

デジタル写真の発達により、銀塩写真の様々な材料が姿を消した。

私が愛用していた印画紙も例外ではなかった。後には、次に出番を待っていたパトローネシリーズの雛形が残った。

 

 止まることのない時をとどめ、その「時」を繰り返し観ることのできる写真。

観ているうちに様々に姿をかえる写真。それは、写真を撮っていない今でも私を魅了し続けている。

 

 フィルムの乳剤が時空光を受け止め、動かないものとして記録する。

静かに冷静なその有様は、シャッターを切った本人であっても後で観て驚く。

 

 出番のなかった雛形を前にしながら、何気なくパトローネからフィルムを引き出したり、押し込んだりしていた。幾度となく繰り返すうちに、いろいろなことが浮かびあがってきた。たとえば、整然と刻まれたパーフォレーション(フィルムの穴)は、時間が流れているように観えたし、フィルムのベース面と乳剤面は表の世界と裏の世界、陰画と陽画、といった具合だ。

 

このフィルムの両面を対とし同じ画面に構成したら、フィルムによる絵ができるのではないかとあれこれ試しているうちに、フロッタージュに辿り着いた。

 

 辞書(大辞林)によると、フロッタージュとは、こすること、の意、シュルレアリスムの独特の技法の一。

粗めの布、岩、木などに紙をおき、鉛筆や木炭などでこすり、一種の拓本をとって絵画的効果を出す方法。エルンストの創始。とあった。

 

 当初、フィルムのみのフロッタージュ画であったが、それに小物を組み合わせてみるとイメージが膨らみ、思いもよらないフィルムの絵ができた。

 

 パトローネからフィルムの出し入れをくり返せば、小さなタイムトンネルのようにも思え、フィルムと小物のフロッタージュは、子供の頃に遊んだ日光写真やあぶり出しのようでもある。

 

 小さなパトローネは、大きな泉である。

 

 

伊藤義彦

 

 

 

伊藤 義彦(いとう よしひこ

1951年山形県生まれ。1977年、東京綜合写真専門学校卒業。35ミリ版ハーフサイズのカメラで撮影したフィルム1本分全部を、一枚の印画紙の上に焼き付けた独特なコンタクトプリント作品を発表。撮影したそれぞれのコマが全体の中で占める位置を綿密に計算、想定し、一枚のコンタクトシートが一つの絵を作り出す作品や、作者と対象の間に存在する、目に見えない時間や意識の流れを一つの画面の中に表現した。

また、2000年頃からはこれまでの手法から離れ、プリントを裂き、イメージを継ぎ合わせ再構築することにより、時間を凝縮させた独特の世界観を表現した「パトローネ」シリーズを発表。

印画紙の生産中止により「パトローネ」シリーズの制作を断念し、2015年頃よりフロッタージュ作品の制作を始める。

近年の主な個展に、「Contact Print Stories」1839 Contemporary Gallery(台北、2018年)、「時空的錯置」泰吉軒(北京、2018 年)、「箱のなか」PGI(東京、2017年)がある。