楢橋 朝子

春は曙

2023.2.1(水) - 3.18(土)
PGI

楢橋 朝子

春は曙

2023.2.1(水) - 3.18(土)
PGI

  • ©Asako Narahashi

  • ©Asako Narahashi

  • ©Asako Narahashi

  • ©Asako Narahashi

  • ©Asako Narahashi

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 PGIでは初めてとなる、楢橋朝子の個展「春は曙」を開催いたします。また、新刊写真集『春は曙』(オシリス)を2023年2月に刊行いたします。

 

 楢橋朝子は、まだ学生だった1980年代半ばに写真家森山大道のワークショップ「フォトセッション」に参加します。卒業後の1989年、個展やグループ展含め、一年を通して約10回に及ぶ展覧会を開催。沖縄をはじめ、国内の各地へ撮影行を繰り返し、写真家として旺盛な活動を始めます。アーティストとしてのキャリアをここでスタートさせたと言えるでしょう。当時西新宿にあったギャラリー、街道にて、「春は曙」というタイトルで連続3回の個展を行ったのもこの年です。また、翌1990年には自身の発表の場としてギャラリー「03FOTOS」をオープンし、当時は特に写真展という形にこだわり自身の作品を発表していました。

 1997年には初めての写真集『NU・E』(蒼穹舎、1997)を出版します。その後も、『フニクリフニクラ』(蒼穹舎、2003)を出版、2000年ごろより、のちに『half awake and half asleep in the water』(2007年)としてまとめられ、またその後も『Ever After』、「近づいては遠ざかる」などに続いていく、水の作品の撮影を始めます。『half awake and half asleep in the water』は世界的にも大きな反響を受け、国内外での展示や出版へとつながりました。しかし、デビュー作とも言える「春は曙」はこれまで写真集として編まれておらず、幻の作品となっていました。

 本展は、およそ30数年の時を経て出版される同名の写真集出版に合わせて開催いたします。作家本人の手によって新たにプリントされた作品をご覧いただきます。

 

「春は曙」の3回の展示に加え、その延長上にある作品も含めて1年間を見返すこととした。今回の展示はニュープリントであるが、久しぶりにベタ、ネガ、当時のバイテンと向き合って、あきらかにここが出発点であったことを再認識した。わたしにもこんな青い春のような時間があったのだと。

 

 こうした楢橋の言葉からも、「春は曙」というタイトルで三回の個展を行った1989年が非常に意義深い時期であったことが伺えます。作品のほとんどには、特定のどこかや何かというよりは、断片としての風景や時間が写されており、こうして集められたイメージの集合からは、楢橋朝子という個人の眼差しが、社会や全体を記録し理解しようとするのではなく、全体を創る「部分」を象徴的に捉えることで自分と世界の距離を測っていることが伺えます。そのことからは、楢橋が、とどまらずその場所を通り過ぎる人であったことも垣間見え、ある面ではそうしたあり方に執着さえもしていたのではないかと考えさせられます。一点、海の遥かに見える桜島とその噴煙は、明らかにその被写体の個性を写しながら、学生生活を終えて社会に出ても、決まった仕事に就くことなく、ただ外へ出て写真を撮るという不安定な生活を送る作者と世界との距離が象徴的に写されています。

 

 

3/31 Mさんに手紙。タイトル「春は曙」にしようかと思いつく。DM用写植原稿入稿。今日は片付く日。スペース21で川村浪子見て上野へ。急行八甲田。(当時のメモより)

 

 1989年。年明けに昭和が終わった。春、長きにわたる学生生活に終止符を打った。消費税が始まった。国内のあちこちに出かけては写真をたくさん撮った。この年、個展、グループ展を合わせて10回やった。

 「春は曙」と題した連続展をなぜこのタイトルにしたのかどうしても思い出せない。ちょうど春だったからかもしれないし、口の端にのぼった言葉に気持ちがシンクロしたのかもしれない。どこへ行くかも何を撮るかもつよく決めていたことはひとつとしてなく、流れや勢いや絡みや逃げなどが針を動かしていたような気がする。学生生活を終えて就職するわけでもなく就職活動をするわけでもなく、手に職があるようなないような不安定な生活のなかで、それでも撮影をかなり優先していたことがわかる。

 暗室は独学で、全紙の印画紙での展示が多かった。狭い部屋で工夫を凝らしロール印画紙を暗闇の中でカットしたことも朧げに記憶している。「春は曙」の3回の展示に加え、その延長上にある作品も含めて1年間を見返すこととした。今回の展示はニュープリントであるが、久しぶりにベタ、ネガ、当時のバイテンと向き合って、あきらかにここが出発点であったことを再認識した。わたしにもこんな青い春のような時間があったのだと。

楢橋朝子

楢橋 朝子(ならはし あさこ)

東京生まれ。早稲田大学第二文学部美術専攻卒業。

1980年代半ば、森山大道のワークショップ「フォトセッション」に参加。1989年に初の個展「春は曙」を開催。翌年、自作の発表の場としてギャラリー、03FOTOS(1990-2001)をオープンした。97年に初の写真集『NU・E』、2003年にはカラーのスナップショットによる写真集『フニクリフニクラ』を刊行。2000年ごろより、のちに『half awake and half asleep in the water』(2007年)としてまとめられ、またその後も『Ever After』、「近づいては遠ざかる」などに続いていく、水の作品の撮影を始める。『half awake and half asleep in the water』は出版後に大きな反響を呼び、以降、国内外問わず個展や企画展、写真集の出版などを軸に、インディペンデントな活動を続けている。日本写真協会新人賞(1998)、写真の会賞(2004)、東川賞国内作家賞(2008)を受賞。